源氏が中断した理由補足


前回ちらっと、源氏が中断しちゃってる理由を克己が成長しないからだと書いたのですが、あの後また少し考えました。
成長しないからではなく、成長せざるを得なくなったので、話が進められなくなっちゃったのではないかと。

江端克己は激しく子どもキャラです。十人兄弟の末っ子で、周囲に愛されて育っています。ここがやや、他の高河ゆんキャラと違うところです(高河ゆん主役級キャラは家庭に恵まれない、もしくはそれ以外の不幸キャラが多い)
彼はその天真爛漫さで、源平合戦の世界に放り込まれても非常にマイペースに突き進みます。源頼朝に顔がそっくりだったため、頼朝亡き後それを隠し通したい源氏陣営に「源氏らしく振る舞え」と言われても、まったく気にしません。源氏であることを証明するために「自分の大事な人が敵として出てくる」戦闘施設に放り込まれても、「誰も倒さないで自分がやられる」という選択をして瀕死の状態に陥ったりします。(頼朝は全員倒して出てきた)
彼の選択はいつも子どもです。知らなかったにせよ、敵側の平清盛(兄)にやさしくし、なつかれてしまいます。


ですが、その彼がついに「子どもでいてはいけないんだ」と思わされるような事件が起こります。平清盛(兄)の死です。
自分の様々な勝手や、しなくていいと思っていた部分のせいで、現実に親しんだ人間が殺されてしまう。
この事件を経て、彼は大人に(=頼朝のように)ならざるを得なくなります。6巻以降、克己は別人のようになって登場します。「俺いろいろあってもうじじいなの 六十歳なんだ」(6巻178P)という台詞はその象徴です。
克己が大人になってしまった都合上、子ども視点で話を進められる新キャラが必要になってきます。それが、6巻(高河ゆんの長期休暇あけ以後)から登場する友絵ちゃんです。大人になってしまった克己では、メインで話を進められないのです。


多分、結局のところ「自分や家族や同じ陣営の者のためにためらいなく人を殺す頼朝(大人)」も、「殺さない克己(子ども)」もイコールである、両方とも「命は二番目、愛されているから命に価値があるんだ」という方向に帰結する、ってな具合におさまるはずだったんじゃないかと思うんですが、大人になった克己を動かすのが困難だったのか、『源氏』は中断されたままそれっきりです。