腐女子の矜持

まだ続いてます、ごく普通の児童文学やらごく普通の野球漫画やらをボーイズラブの棚に置き、時にはやる気満々のPOPまで付けくさって売ろうとする書店への憤り。
前回までのあらすじはこちら
http://d.hatena.ne.jp/emifuwa/20040728#p3
http://d.hatena.ne.jp/emifuwa/20040729#p4
http://d.hatena.ne.jp/emifuwa/20040730#p1

なぜ自分はこのように腹が立つのか?と考えてみたのですが、まずこの書店の売り方が
1.作者に失礼
2.腐女子に失礼
3.腐女子以外の読者に失礼

だからです。

まあ、1.3については前の記事にも書いておりますし、皆さんも容易に予測できるのではないかと思いますので、今回は「なぜ腐女子に対して失礼か」ということについて考えてみたいと思います。

まず最初に、ここでおおまかな腐女子の定義をしておきます。
腐女子とは、作品の中では実際には恋愛関係にない男性同士を、恋愛関係もしくはそれに似た状態にあると仮定し、妄想をふくらませ、それを楽しむことのできる人たちのことだと思われます。
作品の中と書きましたが、実在の人物でも、ある時は器物でも、動物でも構いません。とにかく、攻め、受け、はたまたリバでもなんでも良いのですが、「実際にそうでないのに、そうだというフィルターを通してみることのできる人」です。
腐女子とは、あくまで「そうでない関係をそうだと捉える、そうだと仮定して楽しむ人たち」であって、「特定の男性同士がまったくそんな素振りもないのに恋人同士であると『本気で』思い込んでいる人たち」ではありません。
いくら腐女子が、自身のサイトの日記で「ていうか原作がアベミハだし!」と叫んでいようとも、それは「このサイトは同人サイトです」と注意書きのされた、閉鎖空間でのみ許される言動です。(例えそのサイトが検索サイトでガンガンひっかかり、いつでも誰でも見えるような場所にあったとしてもです)
同人的腐女子的思考のまるでない一般人たちが閲覧することを前提にしていない、巨大ではありますが世間から見ればごくごく一部の好事家が集まる場所でのみ通じるタームで、腐女子たちは会話をしているのです。
例えば、「ホモ」という単語は腐女子たちの間で昔よりかなり頻繁に使われるようになりましたが、ほとんどの場合、実際のホモセクシュアルを指してはいません。また、実際のホモセクシュアルの人たちが見て不快感を感じないだろうか、などもまったく配慮されていませんので、腐女子通念の通用しない、常識的な良識人から見たら不快かつ差別的な発言がごくごく普通にされているケースもままあります。(「ホモにしてごめん!」など)
しかし、そういった妄想は、普通は腐女子たちの集まる場所でのみ共有されるもので、一般の原作ファン、多くの男性ファンなどの前で「最初はアベミハ以外ないじゃんとか思ってたけど最近阿部が受っぽいからミハアベもあり、ていうか榛名も総受けっぽくない?」などと声高に主張する人は、ただの礼儀知らずであり、場をわきまえない無頼な輩です。カップリング同人の是非はともかく、まず基本的に腐女子は「自分の如何ともし難い欲望のために、原作をわざと違う風に受け取っている」ということはわきまえています。わきまえている、と思いたいです。
どうして二次創作をしたり、男同士くっつけたり、それについて夜を徹して語りあったりするか。
それは、やはりなんと言っても原作を愛しているからです。
原作を愛していないのに盛り上がることは、普通はなかなかできません。できる人もいるようですが、私の周囲にはいません。出会ったこともありません。
腐女子が言われてイヤな言葉のひとつに「あの作品、同人女ウケするもんな」という、主に男性オタからのつぶやきがあります。
同人女ウケする。つまり、美形キャラやら美少年がいっぱい出てくる。なんかやたらと「狙っている」ような言動を取る。葛藤なり愛憎なりも散りばめられている。それに踊らされる同人女によって人気上昇、売り上げ上昇、「本当はたいして面白くないのに」「しょせん女ウケじゃん」等々。
デスノートでさえ「最近のジャンプは腐女子ウケする漫画ばっかり」などと言われる御時世です。デスノート、何部売れているかわかってるんでしょうか。テニプリは、本当に女子しか買ってないとでも思われているんでしょうか。
私は『おおきく振りかぶって』が、野球漫画であるはずなのにボーイズラブの棚に置かれ、さも「腐女子ウケする作品」みたいな顔をして売り場に展開されているのが、一ファンとして、とても、とてもイヤなのです。
腐女子は馬鹿にされている!と強く感じます。
ボーイズラブがイヤなのではありません。私も腐女子です。こっち側の住人です。
でも、「おお振り」がボーイズラブの棚に置いてあることに、男性読者や一般読者が不快になることも、まだ「おお振り」を知らない読者にあらぬ先入観を植え付けることも、容易に想像がつくのです。
正直に言いますと、今日仕事中、脳みその半分以上を和巳くんと準くんと、まだ見ぬ呂佳さん(いずれもおお振りにちらっと出て来た他校のキャラです。呂佳さんは高校生ではないと思いますが)の設定を勝手にでっち上げて構築した腐女子妄想に費やしていましたが、そんな私でもです。それとこれとは、まったく別です。
私は、『おおきく振りかぶって』を「腐女子ウケする作品」として世間に認識されたくないのです。
あの作品の魅力は、そんなところにはないからです。http://d.hatena.ne.jp/emifuwa/20040728#p2でもしどろもどろになりながら書きましたが、もっと器の大きい、もっとたくさんの人に偏見なく読んでもらいたい作品なのです。

だからまあ、実際に新宿の山下書店の担当の方にどういう意図があるんだか知りませんが、私は、おお振りをそこに置くことに作品としての害はあっても益はないと思うのです。そんな小賢しいっつか、搦め手っつか、そういうの、似合わないんですよ。「おお振り」に。
もっと、正々堂々と、胸をはって、展開してほしいんですよ。そんなおお振りを、愛したいんですよ、一読者として、そして時には腐女子として、人様に見えない片隅で、同好の士たちと。あまりに勝手な言い草かもしれませんが。
それができないんならしなくていいよ、と思います。普通に置いておけ。気付いた人はちゃんと買う。口コミで、ネットで、広がる。
ボーイズラブは、ボーイズラブでの傑作を、みんなに読んでもらいたい作品をちゃんとPOP付きですすめてくださいよ。

結局、「どうして腐女子に失礼か」ということの答えなんですけど、
「そんなこと、要らぬ浅知恵でしてくれなくても、私たちは私たちの求めるものをちゃんと探しあてる。どんなに至れり尽くせりの美形キャラ取り揃えて狙って台詞言っても、面白くないものには反応しない」

腐女子をバカにするな。ということです。


ああ、こんなに熱く語っちゃって。山下書店のPOP実物も見てないのに。ブログではもっと抑えて喋ろうと思ってたのに。あんな熱く語り倒してまったく笑い話だったよね!で済むような、割とどうってことないPOPだったらいいんだけどなあ…でも、ボーイズラブコーナーに置いてあることは事実らしいしなあ。ああ