腐女子の与える不利益

昨日の「腐女子の挟持」では、「腐女子は、自分の如何ともし難い欲望のために、原作をわざと歪めて受け取っていることをわきまえている、と思いたいです」と書きました。
しかし、現実にはそうでない人がたくさんいるのも、多分に事実です。

いろんな人がいます。ディープでコアな百戦錬磨の達人から、友達がやってたんでー、ちょっと面白そうだったからー、で入ってきたライトなビギナーまで。コミケットの参加人数が膨れ上がったのと同様に、同人女(書き、読み、地方でアンソロと通販だけ、など各種全て)の数も爆発的に増え、大多数がいわゆる腐女子、男性同士のカップリングを好む人たちです。
なぜか、ノーマル(=男女のカップリング)の人は、自己紹介する時謝ったりします。「ごめんなさい、ノーマルなんです」いや、謝ることないですからあなた原作通りじゃないですか。もちろん、私たち腐女子は原作通りじゃないからっていちいち謝っていたら日が暮れてしまうのでやりませんが、心の中では、「原作者に対する、大変に申し訳ない気持ち」は、存在していると思います。思いたいです(またか)


おお振り』のボーイズラブ棚置きに関して私が異常にじたばたしてしまうのは、こんな話を小耳に挟んだからでもあります。(聞いた話ですので、細部が違っているかもしれません。当事者がいらっしゃいましたら、お詫びして訂正いたしますのでお知らせください)

一般のファンが集まる『おお振り』について語り合うスレッドで、(自称)「腐女子」が
「デビュー作(『ゆくところ』)がホモなんだから、作者のひぐち先生は腐女子に決まっている」と強く主張し、スレッドの住人たちを困惑させた、というのです。
それがどの程度本当なのか、その後どうなったのか知らないのですが、それを聞いた時、腐女子の私は「うわーーーー!!!やめてーーー!!!」と悲鳴を上げました。
危うく、そのスレッドを探して
「違います!腐女子はこんな人ばっかりじゃないんです!こんなこと思ってるのこの人だけです!!腐女子は!!腐女子はー!!!(号泣)」と書き込みたい衝動にかられました。やりませんでしたが。
日本の誇る大和腐撫子は、いったいどうしてしまったのかと!
武腐(もののふ)の心意気は、どこに消えてしまったのかと!


まず、『ゆくところ』を例にあげて「だから腐女子」というのはとんでもない誤読です。『ゆくところ』を読めばわかりますが、あの作品にボーイズラブ的要素はほとんどない、と言っても過言ではありません。そう解釈することは、作品への冒涜にもあたるでしょう。言いがかりも甚だしい。
ホモセクシュアルを描くことと、腐女子的なパロディやボーイズラブを描くことは、まったく別物です。(作者によってはその辺の境界が曖昧だったり、どちらからも受け入れられるような内容であることもありますが)
よしんば、一億歩譲ってひぐち先生が腐女子であったとしても、『おおきく振りかぶって』の作品の主要なテーマは「男性同士の恋愛」ではありません。講談社のメジャーな青年誌向けに描かれた野球漫画です。斬新な切り口は多々あれど、繊細な心理描写も多々あれど、基本的にまったく腐女子的要素を目指していないことは、誰が読んでも明らかです。
そんなわけで、一腐女子であり一おお振りファンである私は、その話を聞いて暗澹たる気持ちになりました。スレッドで楽しくおお振りについて語り合っておられたであろう、一般のファンの方や、男性ファンの方に申し訳ない。腐女子と名乗る人物がそんなご迷惑をおかけして、さぞかし困惑されただろう。あー、また「これだから同人女は…」って言われちゃうよー。イヤだよー。
いくらなんでもそんなアホいるか?腐女子の評判を下げる陰謀なんじゃね?と半ば本気で思ったくらいです。
腐女子だって、萌え話してる時に突然野球に詳しい男性が入って来て、野球話はじめたらひいちゃうでしょー。ここはそういう話するところじゃないんだよって。場をわきまえようよ!忘れちゃいけないよ!原作を無視して勝手にゆがんだフィルターでカップリング作って妄想して楽しむのは、世間的に認められた行為でもなんでもないんだよ!



以前私はあるゲームジャンルで同人サイトを運営していたことがあるのですが、同人活動には比較的寛容だったソフトの販売元から、ある日突然
「同人サイトはURLを送ってくれ。こちらで内容が適切かどうか審査する」
みたいなお触れが出されたことがあったのです。
当然ですが、ジャンル内は騒然。大きくはないですが小さくもないジャンル、腐女子サイトはかなりの数です。「なんで突然」「いきなりひどい」「審査なんか通るわけないよ!」と蜂の巣をつついたような騒ぎになりました。
当時私も到底道徳的とは言えないような内容のサイトを運営していたため、大きな反発を感じました。検閲かよ、笑わせんな!みたいな…
ははは、恥ずかしいですね。消えてしまいたいです。

しかし、のちに販売元から説明がありました。
「海外の取引先が、うちと交渉する前にうちのゲームの名前で日本のサイトをいろいろ検索してまわったところ、男性同士のキスシーンやらポルノまがいの映像が多数ひっかかった。『そちらでは、こういうゲームを作っているのか』と尋ねられ、対応に困った」

血の気がザッと引きました。
私らのせいで、販売元が営業するのに大きな不利益を被っている!!!
私らの勝手な欲望と妄想のせいで。お目こぼししてもらっていたオイタのせいで。そのくらいいいじゃない、表現の自由でしょ、妄想する権利を奪わないで、そんな手前勝手な思い込みが、甚大な被害をおよぼしている。
先にゆってよ!先に言ってくれればさ、私らも変に反発したりしなかったのに…そりゃもう完全にこっちが悪いです、スンマセンした。

だってこれで、発売元の会社が海外の取引先と上手くいかなくなって、そっちで売れなかったりして、予算とれなくなって、それで新作のクオリティが下がったり、変な規制かかってつまらない内容になったり、最悪出なかったりしたら!!
大好きで大好きで、このゲームが大好きでだから同人までやっちゃってる自分も、そして同人なんかやってなくてただただこのゲームが好きで好きで、新作出たら徹夜でやり込んで、裏ルート見つけて、レアアイテム集めて、そんな全国のファンに申し訳なさすぎるじゃないですか!謝っても謝りきれないじゃないですか!

今はそのジャンルを離れてしまったので、まだこの審査制が生きているのか知りません。実際審査してもらったサイトによると、トップにきっちりはっきりと注意書きをし、18禁表示も明確になされていれば、かなりアレなコンテンツでも問題なく審査を通ったそうです。(実は私はテキストサイトであったのをいいことに、結局審査申請しなかった…でも、注意書きは発売元の指示を忠実に守ってかなり強化したので許してください)


忘れちゃいけない、腐女子的思考は、決して世間一般に受け入れられたものではない。いくら腐女子の人数が増えてもそれは同じこと。
多いから正しい、は正しくない。みんなやってるから、は言い訳にならないのです。
腐女子は、自分の妄想が決して一般的なものでなく、多くの人に不快感を抱かせるおそれのあるものだということを自覚していないと、愛する原作をぶち壊しにしてしまうこともあり得るのだということです。