腐女子の弟


追記:このエントリは2004年に書かれたものです。


今、弟が近くにいるので、ブログをはじめてからいろいろ気になったことを尋ねてみました。


彼は私より六つ年下の現在23歳、機械工学科の大学院生です。普段は別の所にいるので、今会うのはせいぜい一年に二三回です。彼が高校卒業まで同じ家に住んでいました。


小さい頃からこんな姉の影響下で育ったせいなのか、彼はやおいに対する抵抗があまりありません。
少女漫画も面白ければ抵抗なく読みます。それから、私の買ってくる(腐女子的な)同人誌やアンソロジーなども読みます。特に、自分の好きなゲームの同人誌はかなり積極的に読みます。私の友人の描いたもので、ゲームの世界観を自分なりにしっかり構築しつつ腐女子的にもかなりディープな(エロ場面があるという意味でなく、心情的に腐女子度高いという意味)作品であり、絵の上手いものは、作品内の中心が恋愛模様であっても率先して読みます。


それ以外にも、以前見せた腐女子系同人誌の描き手さん(ゲーム系、絵が凄く上手い)が、今どうしてらっしゃるのか気になって、サイトを探しまくったなどと今回教えてくれました。(ちなみに、その方が今やってらっしゃるジャンルのカップリングは彼的にはダメだったらしく、その後サイトをチェックはしていないが、ギャラリーに置いてある昔の絵は未練がましくたまに見に行ったりするらしい)
しかし、自分で同人誌を買いにいったりはしたことはありません。あれば読む、という程度です。同人誌即売会にも一度も行ったことがなく、「オタから見るとオタじゃない」人だと思います。

以下の文中で、例として既存の漫画、アニメ作品などから男性同士、女性同士のカップリングの例をあげることがあります。そういった表現が生理的に嫌だ、という方は読むのを避けた方が無難かもしれません。

また、実在のカップリングについて「このカップリングは私には馴染めない」という表現をしていても、あくまで一個人の好みの話なので、当該カップリングを糾弾したり、否定したりする意図はまったくありませんことを先にお断りしておきます。不快になった方がいらっしゃったら、お詫び致します。あくまで例えや、文脈の中ででのことだとご理解いただければと思います。


 −姉がやおい作品を書くことについて、またそういう嗜好を持っているということについて、気持ち悪いと思ったりしませんか?
「え?(しばし考える)いや、別に」 
 −いわゆるやおい的嗜好を、気持ち悪いと思いますか?
「俺は小さい頃からなれちゃってるからかもしれないけど、思わない」
 −自分(男)はこんなことをしない、と思って気持ち悪く感じたりしませんか?
 「読むときに、自分の方にひきつけて考えていない。だからそうは思わない。
 ただ、第三者として引いて見た時に、キモいとは思うと思うけど、自分の心情の中にそれを気持ち悪いというのは、ない」 −やおいだからという理由だけで、気持ち悪いとは思わないと。
「ただ、以前に自分でも考えたことがあるんだけど、そういう読み方の出来る自分は実は作品に感情移入する度合いが低いのかも、と思ったことがある」 −それはちょっと、この場では判断しかねますが。
「それから、気持ち悪くないといっても、(自分にとって)気持ち悪い作品が存在するのはわかる。姉ちゃんが所有しているそういう作品(同人、商業ともに)は姉ちゃんの審美眼を一度通っているから、レベルが高い。そうでない、ただの質の悪い少女漫画のようなもの、受キャラがやたら女っぽい(そしてそれ以外に必然性の感じられないもの)、ほとんど女性化している、なんかだと「気持ち悪い」と思うと思う」 −女性化はダメですか。
「ちょっとね…面白いのがあれば、いいかもしれない。結局、少年漫画でも面白くないものは面白くないのと同じで、やおいにも面白くないものと面白いものはある。面白いものは面白く読める。ただそれだけ」 −自分の大好きな少年漫画でそういった視点が持ち込まれると、嫌に思ったりしませんか?
「それもやっぱり、面白いか面白くないか。ええ?信じられない?アリか?と思っても、面白ければ、納得させてくれればいい」 −(本棚の背表紙を見つつ)「うしおととら」とかどうですか?
「うしとらで?えー。どういう?」 −いやそれこそ、潮ととらで。ありますよ、そういうの(*実際私はうしとらのやおい同人を読んだことはない。カタログのサークルカットで見かけただけ)。
「はー。(あんまりピンと来てない顔)漂(*すいません正しい字が出ません。化け物に妻子を殺され、その仇を追っているクールな男)とか?ならわかるような」 −うーん、杜綱悟とか。ありそうな感じしないですか?
「秋葉流(*バイクにのって現れる、何でも出来る苦もなくこなせる天才肌の飄々とした兄ちゃん)とかならアリかも。流×とらとか」 −(想像もしなかった組み合わせを提唱してくる弟に驚きつつ)流ですか…、確かに彼の場合はそういう風に持ってきても、大丈夫そうな雰囲気ありますね。でもそこがかえって腐女子としては萌えないというか。あえてなりそうにない組み合わせを持ってくるところに萌えが
「(スルーしつつ)流なら、わかるでしょ」 −そうですか…(確かにその組み合わせは的確ではあるよなと弟の腐女子スペックの高さに驚きつつ)

 
*流は最初主人公の味方だが、途中で敵に回る。それは、何でも出来る天才肌な流が、主人公にコンプレックスを抱いているのだととらが指摘して怒らせる場面がある。そういったことを考えると、確かにこのカップリングは私的には十分にアリではある。=二者間に、何らかの特殊な葛藤、愛憎、執着が存在している。しかし、一般の腐女子全員にそれが適用されるとは思わない。あくまで私の好み。彼の選択は私の好みを色濃く反映している。

 −確かに流はそういった意味では、あの作品中ではいじりやすいキャラだとは思うのですが、あなたがそういう(私的に十分アリな)カップリングを直ちに提示してくるとは、あなたのスペックの高さには感服致しました。
「いや、考えろって言われたから考えただけで。最初からそう思って読んでいるわけじゃないけど、ある程度メインキャラから絞って、その関係性でやおい的になぞらえることのできるものって絞られるでしょ。システマチックに選んだだけなんだけど、正直自分でも上手いな、とは思ったけど(笑)
流ととらって、途中でタッグ組んで戦ったりもするし、最終的に自分を倒す相手をとらだと選んでるわけじゃない」
 −私は、どちらかと言えば流だと潮との関係について先に考えてしまいますが。
「でも実際流のコンプレックスを見抜いたのはとらだし、潮はそれを知らないわけでしょ。流は潮の前に出ちゃうと「頼れる兄貴分」的なキャラでしかいられなくて、それが苦しいわけじゃない。それが、とらというワンクッション置くことによって、自分の内面的なものをさらけ出せる、そういう人間関係が俺的には、なぞらえるとしたらアリなのかって」 −ますます感服致しました。しかし、あなたは私の影響を受け、基本的に私と好みがまったく同じなせいか、いわゆる「攻めキャラがかっこいい美青年、受けキャラはかわいくてラブラブ」的なやおいネタは出てこないようですね。。
「もちろんそういう(美青年、美少年同士の組み合わせでラブラブな)作品でも、面白ければいいんだけど。抵抗はないけど」 −でも、ぶっちゃけ流ととらという組み合わせはその構図にあてはまらないですよね。

*流は作品中で非常に魅力的な男性キャラクターとして描かれるが、いわゆる美形キャラではない。とらは猛々しい化け物であり、人間ですらない。


「当てはまらないね(笑)見た目が美しいことは俺には関係ないし…そう(姉に)教育されたし(笑)」
 −(笑)教育されましたか。
 


「でも、結局これは、俺が「脳内補完ができるかできないか」ということであって、男であるか女であるかっていうのは、あんまり関係ないと俺は思うんだよね。
 男同士でも、女同士でも、男と女でも、これは面白いと思った、やおいというくくりでに限らず、「キャラ同士の人間関係」を、原作にないエピソードを加味していろいろシミュレートして、面白く感じられるかられないか。
 そういうことが出来るオタクっていうのは、男女関係なく、オタの中のごく一部にすぎないと思う。だから、違う形で原作を楽しむオタにとっては、あんまり歓迎できなかったりする。それだけだと思うんだけど。」 −つまり、デスノで言えばライトとLというキャラがいて、二人の関係性はとても魅力的だ、だから原作にないエピソードの中で、ライトはこういう時どうするか、Lはこういう時どうするか、そこに肉体的行為が伴うにしろ伴わないにしろ、そういうのを想像するのが楽しい人種と、そうでない人種とがいると。
「自分の中の原作に対するイメージ「自分ルール」を侵さなければ、どんな作品でも俺は楽しめる」 −流ととらの組み合わせは、あなたにとって、自分ルールを侵さない。原作準拠度が高いのですね。また、やおいであるということはあなたにとって、納得できさえすれば障害にはならないのですね。
ですが、例えばうしとらのカップリングとして「流×とら」などと表記すると、嫌悪感を感じる人がたくさんいるであろうことは予想できますよね。
「それはもちろん。純真なファンの前では口が裂けても言えない」 −言えないけど、あなたは別に嫌悪感は感じないと。
「俺から見れば、カップリング、男男、男女、女女に関わらず、その関係性に着目して、好きなものを抽出し、脳内補完して楽しむという楽しみは、男性にもあるのではないかと。思うんだけど、どうかなあ。俺は楽しいんだけど、他の人はそうじゃないのかも」 −例えば、私とあなたが同じ漫画を読む。だいたい、このキャラがいいとかこの場面が好きというのは、かなり高い割合でかぶりますね。実物の芸能人などの好み(男女に関わらず)も、相当かぶります。萌えポイントが物凄く近いということだと思いますが。
「ありえないくらい、好みかぶるよね」 −作品中に、素敵な男女のカップルがいたとする。私たち二人とも、その二人が、その組み合わせが好き。で、あの二人はああいう時きっとこうだよねー、こんな時はこうするよね、と話して楽しんだりするのと同じということでしょうか。
「そう」 −あなたは腐女子ではない(やおい作品をやおいであるという理由で愛好はしない)ですが、パロディ作品が好きであり、パロディの一手段としてのやおいに抵抗はないのですね。
「たぶんそう」 −実際のやおい作品を見てみての好き嫌いはあっても、やおいという理由だけで却下することはないと。
 ではもう一つ質問なのですが、原作を読んでいる、ゲームをプレイしている時点で、何らかのやおい的妄想が生じることはあるのですか?
「それはない。まったくない」 −ないのですか。
 「それっぽい描写だな、と思うことはあっても、それはかなり狙いがわかりやすい時とかで。基本的にはない」 −例えば私なり、女性同人作家なりの作品を目にしたあとに原作を読むなりゲームをプレイするなりして、「ここの台詞で萌えたりしてんだろうな」と想像することなどはありますか。
「ある」 −楽しいですか。
「楽しい。それが好き、ってんじゃないけど、面白いなと思う」 −では更に突っ込んだ質問ですが、腐女子は受け攻めが逆だと受け入れられなかったり、組み合わせに非常にこだわりますが、あなたの場合そうした好みは、多少なりと存在するのでしょうか。
「…?」 −例えば、ワンピでルゾロかゾロルかとなった時、自分としては、あえて言うならこちらの方かな、みたいな。
「…正直、どうでもいいっていうか。まあ多少はあるんだろうけど」 −例えばですね、私はかわぐちかいじ作品の、海の名を持つ者と洋の名を持つ者だと、常に海の名の者を攻めにしたい、という好みがあるのです。

*かわぐち作品には、海の字が名前に入っているキャラ(海江田、拓海など)と洋の字が入っているキャラ(洋、洋介など)の対比が頻繁に登場する。海の方は一人でスケールの大きいことを仕出かすキャラで、真面目な正義漢の洋の方はそれに翻弄されつつも自分なりの正義を貫こうとするパターン。顔のタイプもいつもほぼ同じ。

「はあ」 −海江田を例にあげれば、彼はいわば世界を相手に攻めているキャラなわけですよ!究極の攻めキャラと言ってもいい。
「まあ、受動的とは言いがたいよね」 −それに対して、深町(洋)は私にとっては大変好ましい男性像です。魅力的であるがゆえに、受けにしたいといった心理がはたらくのですね。まあ、彼を受けにするかどうかは好みの問題だと思うんですが、あくまで私から見ればですよ、海江田受け作品に関しては、なぜ海江田が受けになるのか、それが解せない、とまあそういったカップリングの好みといったものが、腐女子には大変重要になってくるわけです。
「…」 −もちろん、リバを好む人もいますが少数派ですね。やはり受け攻めは動かしがたい各腐女子の好みとして
「海の方って、いつも一人でパーっとどっか行っちゃうじゃない。で、それを洋の方が追いかける構図になるでしょ。だから(海受けになる)じゃない?」 −あっ…(納得している)
 
「ねえ?」 −は、はい…(納得してしまったことに動揺している)あなたとお話するのは、大変勉強になります。それにしても、あなたはそういった腐女子の心の動きのタイプを察することもできるのですね。

そういえば、私は昔あなたに、腐女子的二次創作の展開に詰まった時、相談をしたこともあります。これこれこういうキャラがこういう状態に置かれた場合、このキャラの心理はどうだと思う?といったような。
「あったねえ」 −二時間くらい語り合いましたね。あなたは非常に的確なアドバイスを下さり、大変参考になったものでした。
「だからそれは、姉ちゃんの作品を既に見てて、そういう思考が頭にあったから、それを持ち出してきてそれでフィルタリングした上で原作を見る、それで意見するってことが俺には出来るみたいで。でも、何もない状態、一人で妄想をめぐらすことはできないよ」 −「マリみて」なんかで、男性作家がいわゆる百合的なカップリング作品を書きますね。そういったことについてはどのようにお考えですか。
「だから俺はあれが人気出た時点で、男性にもそういうカップリング、組み合わせ的なものを愛好する文化が盛り上がるんじゃないかと思って期待してるんだけど」 −えっ。あなた、そんなことを考えてらっしゃったんですか。
 「うん。そうなったら、それはそれで面白いんじゃないかと。男性だと、カップルものを嫌う人も多いし、百合はどうしてもダメって人もいるけど、そうじゃない人もきっといると思うんだよね」 −例えば「ふたりはプリキュア」で、私はどちらかと言えば、白×黒を好むのですよ。わかりますかプリキュア

ふたりはプリキュア」は、女の子二人が主人公の人気アニメ。
白(ほのか)は変身後の衣装が白のスカートで、黒い長い髪のフェミニンな美少女。
黒(なぎさ)は衣装が黒のスパッツで、茶色のショートヘアの活発な美少女。

「だいたいわかる」 −白が黒大好きで、黒はちょっと戸惑い気味みたいな。で、逆はちょっと、あまり好みでないなあと思うのです。で、男性向けの男性が運営しているサイトさんで、白黒的な描写があると、これいいなあと思ったりします。
描いてる男性さんも、白黒が好きで描いてらっしゃると思うわけですよ。俺の好みは黒白じゃないんだと。
それを選ぶ理由は腐女子カップリングを選ぶ理由とイコールではないにしろ、男性にもそうした組み合わせを愛好するタイプの方もいらっしゃるのではないかとは思います。
でも、考えてみると、男性は仮に女女の組み合わせを描いてらっしゃっても、「●×○」とかそういうカップリング表記はあまりなさらないような気がします。今手元にコミケットカタログとかなくて、イメージで喋っていますが。
「そういえば、そうかも」 −組み合わせがどうこうよりも、攻めと受けという概念や、表記の仕方が、男性の心情にフィットしないんでしょうか。それとも単なる習慣なのか。
「うーん、どうなんだろう…俺は、もっとそう、組み合わせで語るもの、あるんだろうけど、もっともっとあってもいいと思うし、男性の描いたそういうのが読みたいんだよねすごく。つまり、やおいな切り口じゃないもの、そうであってもいいし」 −腐女子に限らず、女子は組み合わせが重要だと思うんですよね。サイトの検索、サーチなんかでも、組み合わせがキーワードとしてずらりと並ぶでしょう。でも、男性向けだと(サーパラを見ながら)「スクミズ」とか「メイド」「ネコミミ」「触手」カップリング表記はまったく見当たらないですよね。もちろん、そういう表記をしているところもあるのかもしれませんが、私が白黒サイトを探そうと思ったら、指標がないので全部回ったりとかしないといけません。
「確かにそれはそうだね。エロが多いからっていう理由もあるだろうけど」 −でも、正直あんまりわからない…ですね。状況がわからないから、判断できない。
 「そうだね。俺もよくわからない」
 −予想ばかりになってしまいますから、これ以上の言及はやめときましょう…



ここで一旦話を中断しましたが、しばらくして、弟が私のところにやって参りました。

「またオタの話してもいい?」 −どうぞ、いくらでもなさってください。
「俺ね、ギャルゲの主観視点がね、嫌いなのよ」 −主観視点?
 

話を聞くと、ギャルゲーの、アドベンチャー形式のもので、自分が主人公視点になるのが、たまらなく嫌だというのです。

 −主観視点って、あの、私はあまりその手のものに造詣が深くないのですが、いわゆる普通のギャルゲーと言って思いつくようなものをイメージすれば良いのでしょうか。
「画面に女の子だけが映って、自分は映らなくて、それで会話したりして進めていくような奴ね」 −あの、昔「ジャスティス学園」におまけとして恋愛ゲーついてたじゃないですか。私はあの手の恋愛ゲーってあれしかやったことがないんですけど、あれは割と楽しめましたが。取り立てて、違和感は感じませんでした。
「あれも、俺は、いくらかの違和感はあった」 −はあ、そうですか…どんな感じにですか?
「キャラ、誰でもいいんだけど、ひなたならひなたを前にして、自分が台詞を言ったりするじゃない。いや、あのゲームは自分の台詞はなかったかな?ないにしても、ひなたはそれに反応して、「○○は優しいんだね」とか言うでしょう。それがもうダメ」 −全然ダメじゃないですか、それじゃ。

エロ、割と健全、関係なくですか?プレイしたのは、メジャーなタイトルですよね?誰でもやっているような。特にマイナーなもので、そのゲーム自体が苦手だ、というのではなくて。
「最初はね、ギャルゲー自体が馴染めないのかと思ってたの。システム、キャラデザ、そういうのとか。でも、ギャルゲをアニメにした奴見ても、嫌悪感感じない。小説読んでも、客観視点として読めるから大丈夫。でも、自分が主観視点で、女の子だけ映ってる画面を前にしてゲームやるのが、物凄く不愉快なの」 −不愉快… でも、それではあなた、ギャルゲやってても楽しくもなんともないのではありませんか。
「違和感感じるから、苦痛」 −その他のオタ的エロ作品はいいんですよね。ギャルゲの主観視点だけがダメ。何が、どうダメなんですか?
「わからないけど、主人公が自分に近い奴ならまだ平気かな。それでも、違和感はある。自分とかけ離れたキャラで、しかもムカつく奴だったりすると、本当に不愉快」 −でも、多くのユーザーは、たぶんそこに嫌悪感を感じたりはしていないと予測されますよね。そんな不愉快だったらやらないだろうし、売れないだろうし。
「俺もどうしてダメなのかわかんないんだけど…とにかく、自分主観で、自分なら絶対喋りもしないような台詞喋るでしょ?俺、そんなこと言わないと思っちゃうのよ。それで、そんな痛い台詞で叩かれるんならいいけど、女の子喜んで付いてきたりするわけじゃない。物凄い不愉快」

何だか、彼の台詞に物凄い既視感を感じています。似たような台詞を、なんかどっかで聞いたような。どっかで…

…姉はブログをやっていることは教えたが、アドレスも教えてないので弟はまったく中身を見ていないというのにこのシンクロ率。ちょっと嫌。

●「ドリを歩いて」id:emifuwa:20040813
 
 
 −あのですね、ドリーム小説というのをご存知でしょうか。
「?知らない。何それ」

ここで一旦、かいつまんでドリの説明、何人かで試したこと、こんな反応に分かれたことなどを説明した。

 −で、私は最初これイケる!凄い面白い!設定もきちんとしてる!納得!みたいなドリームがあったんですが、だんだん主人公女子の言動が鼻についてきまして。おまえ出しゃばりすぎだ!みたいに思えてきて。
「!それ凄くわかる!俺的にはまったくありえない、モテるはずのないキャラなのにモテたり。こんな台詞最悪、と思ってるのに女の子が嬉しがったりして。でも変にイケてる男の設定だったり」 −そうそう、主人公女子はやたらと周囲にモテるんですよね。私にとってはウザキャラなのに。
「ウザい、っていうのが一番近いかなあ。だってさ、それまでずーっと主観視点で見てるから、自分は画面に入らないわけよ。なのに、キスシーンになると突然見たこともない男が現れるの。おまえ誰だよ!って(笑)」 −(大爆笑)そうなんですか!?確かにキスシーンは一人じゃできませんものね。
「おまえ、俺だったのか!?初めて見た!みたいな(笑)そこでまた、不愉快なんですよ!」 −(笑)
「これが、それまでに自分が画面の映像に入ってれば、いくらか客観視点で見れるから違うんだけど」 −はあはあ。ええと、あなたのお話をずっとうかがっているとですね、以前何度かお話した某さんとあなたは、非常に共通点があるのです。(=「ドリを歩いて」に登場するAさん)

 腐女子ではないが、腐女子文化に近いところで育っているので、普通の人よりはそれに抵抗はない。その周辺の作品群に感動した経験もある。腐女子的な話題にあわせて盛り上がることもできる。

で、ドリの話題になった時、私含む腐女子群はこぞって「原作の世界を壊したくないから自分を入れたくない」という意見を言ったのですね。あなたにおけるギャルゲのように、玄関口で拒否反応を示した。彼女はそのメンバーの中では一番ドリが平気だったのですが、彼女的には、こういう疑問が出てきてしまうのです。
どうしてそんなに原作を大事にしているのに、男同士にするのか?
「はーーーーーーー」 −どうして男同士にするのかって、疑問を抱いたことありますか?
「いや…全然考えたことなかった」 −全然ですか。
「でもそうか、言われてみりゃ確かに何で男同士なんだろうなあ。考えたことなかった本当に」 −例えば今のドリーム小説の話って、ドリは原作のある話で、それに違和感を感じるのは、原作の世界を壊したくないからという理由があるわけで、一概にあなたのギャルゲ主観視点への違和感と同列に並べていいものではないのかもしれない、とは思うのですけれど。
「うーん。俺の感覚で言えば、原作を壊したくないっていうより、自分が巻き込まれるのが嫌だ」 −自分が、巻き込まれるのが嫌だ。
「シナリオは決まっているわけだから、自分の思ったような行動はとれない、自分の好きじゃない台詞を自分が勝手に言う、むしろ自分が壊されるようで嫌だ、というのが俺は近い」
 −なるほど!!!それは凄く納得の意見です。自分が壊されるのが不快。そうかもしれないなあ。
ドリームの中には、私が馴染めたものもあったのですよ。それは、主役がすごく卑屈で、美しくない、好きな男性に迫られても逃げちゃうような話なんですけど。
「だから、中にはそうやって、自分の中の一要素とふれる作品があるかもしれない。そういう作品になら、それほど違和感を感じずやれるのかも」 −あなたなら「主観視点でプレイする」腐女子なら「名前を入れる」のが、自分を壊されるように思える。自意識がそれに耐えられない。のでしょうかねえ…

ここまで来て、ある意味うちの弟って、Aよりも腐女子度高いんじゃね?と思い始める。

 −私は正直、あなたが私とやおいネタで喋ってくれるのは、あわせてくれているというか、まあネタ的に楽しんでいるとか、上っ面と言っては聞こえが悪いですが、そういう風に思っておりましたが、違うのですね。
「それは違う。明らかに違う。俺的には、むしろそれ(脳内補完的楽しみ)が自分の(オタとしての)本質になっていると思うよ」 −やおいであるかそうでないかに関わらず、脳内補完は自分には楽しいんだと。
「そうです」 −でも自分ではできない、やらない。
「姉なり同人作家なりに、二次創作によって何らかの指標を与えられて、その枠の中でいろいろ考えるのは楽しい。でも、自分で考えることはできない。俺のは二次創作の二次創作っていうか」
 −三次創作しかできない、ということですか。
「そう。だから二次創作ができる人はすごいと思う」 −そうですか。

この度は、お話させていただいてありがとうございました。不躾な質問も多々あったと思いますが、ご容赦ください。



******


終わってからの感想です。

弟のオタ度をみくびってました…
あと、腐女子スペックも見くびってた(笑)


弟は、原作のパロディが好きな人なのですね。例えば、「ドラクエ四コマ」みたいなものから腐女子要素のあるものまで、弟の視点からは同列で、やおいというのは表現手法のひとつに過ぎないのだと。
姉と話をしたり、姉の面白いという同人誌を見るにつれ、腐女子の好むパターンというものをある程度身につけ、その視点をフィルタリングして話を合わせることもできる。そして、それが本人にとっても「割と楽しい」のは今回話をしてみて、大きな発見でした。

まあ、私の話に付き合ってくれるのは、お付き合いというか、ネタ的にとか、そういう風に思っていたんですけど、「ある一つの視点として」彼は結構楽しんでいるらしいことがわかりました。


先日、ある腐女子さんに
「非オタの男性と映画を観に行ったら、うっかりその映画の某キャラに物凄く萌えてしまい、一刻も早く萌え語りをしたいのに、非オタの男性相手に萌え話もできず往生した。やはり映画は腐女子同士か、一人で行くのがいい」


というお話をうかがったのですが、たぶんうちの弟なら、萌え語り聞いてくれるし、的確な突っ込み「それは先走りすぎだから」「ああ、なるほどね、そう来るか」もまじえつつ、目の前の腐女子の好みを瞬時にフィルタリング(誰にどう萌えるか、誰を組み合わせるか、どっちが攻めか受けか)して話を合わせ、それで楽しむこともできるんじゃないかと思いますよ、Mさん。
彼の場合、自分の受け攻め好みというのが明確にあるわけではないので、ある意味腐女子相手に話すのとはまた違った刺激を得られる(腐女子相手だと、好みがかみ合わないと話が出来ない時がある)ところがあると思います。私の経験上では。


弟に、「私はあなたは、オタ度はあまり高くないと思ってたんだけど」と言ったら「そんなことないよ。すごくオタだよ」と言ってました。
ほんとその通りでした。今回は、まったく知らなかった彼にふれた感じです。最初はちょっとだけ「やおいって気持ち悪いとか思う?」くらい聞いてみる程度のつもりだったのに、二日に渡って、正味五時間くらいは喋っていたと思います。(実際はもっと突っ込んだ互いの好みについての話題なども出ました。上の文はもちろんそのままでなく、かなり編集されています)何でも話はしてみるものだなあ。


たぶん彼は、男性のオタクとしては特殊なパターンだと思うのですが、姉がディープなオタクだった人の場合、これに近いケースになることって、あるんじゃないのかなあ。妹がオタだった場合だと違うだろうなあ。
まあ、こういう人もいるんだということで、ええと、今回のお話は終了させていただきます。
なんか自分だけが楽しいみたいだけど、面白かったです。


あと、会話で私の喋り方が妙なことになってますが、弟と区別をつけようと思っただけで、もちろん本当にあんな喋り方をしているわけではありません(笑)


後日談:

昨日ネットがつながらなかったので、友だちに用があったついでに電話して、弟の話をしたところ


「弟さんて、『腐女子スペックが高い』んじゃなくて、『スペックの高い腐女子』じゃない?」
「…、ど、どういう意味ですか?」
「いやだって、普通即座に流×とらとか出てこないでしょう。本質的すぎるというか、先鋭的すぎるというか、ある意味、受け攻めどうのの好みがない分純粋な萌えというか」
「…」
「なんか、もうちょっとっていう感じがするんだよね」
「なんですか!?もうちょっとって!…いや、確かに『主観視点が嫌い』『どうして男同士か考えたこともない』というのを聞いた時、正直申し上げて、こいつ腐女子度高くね?とか思いましたけど」
「思うよ」
「だから、腐女子回路というものにA、B、C、D、Eとあったとして、私は全て備えているんです。弟はもしかしたら、このうち二つか、下手すると三つくらいは備えているのかもと。たぶん、男性であるがゆえに持ちにくいものが、残りのふたつだったり」
「いやでも、弟さん、あるゲームだけに関しては、自分でゲームの続きを考えたりしたんでしょう?」

*上にはかかれていないが、弟はあるゲームについてだけ、攻略本などを読み込んで、かなり細かく設定を自分で補完して、ゲームがラストを迎えた後の話を考えたことがあるという。ただし、それを文字にしたりはしていない。
弟いわく
「あのゲームは自分にとって特殊で、正直もとのゲームはイタいところもあり、そういう批判も多かったが、なぜか自分はそういう部分を巧みに脳内でフィルタリングして楽しむことが出来ていた。自分にとって、そういうタイプのゲームは初めてであり、脳内補完の度合いが強かったためか、普段やらないようなこと(自分でラストの後を考えたり)をしてしまった。自分でも不思議に思っている」

「うん、ゆってたね」
「でもそういうのって、ゲームをした誰もがするかって言えばしないじゃない」
「そうだね」
「だからさ、彼には出会いがないんだよ。私にとっての『●●』(彼女が今二次創作をしている作品名)みたいなのが弟さんに出現すれば、もしかしたら、ガーっといっちゃう可能性も」
「脳内補完をうながすような作品に出会ったら…?」
「うん」
「ガーっと」
「…」


*今、書式を変更するのに読み返して「弟って、単に『読み専で、腐女子ネタもイケる人』?と思った。