怒られる腐女子、怒られない腐女子


ドリの話題は一筋縄では行かなそうなので、とりあえず置いておきます。
先日「二枚のレンズを持つ者」http://d.hatena.ne.jp/emifuwa/20040802#p5で、腐女子の世代間の温度差について「ボーイズラブの棚が書店にある状況とない状況」ということを書いたんですが、今日はもう少し突っ込んで書いてみようと思います。

友人(私より十才年上の女性オタ/腐女子というよりは普通のオタ寄り)とこのブログの内容の話をしていた時、こんな話題が出ました。

私が大学生の頃の話なので、
記憶が曖昧だし捏造されてるかもしれないんだけど、
あったことは事実です。


C翼のやおい同人誌が流行りだした頃、
WJの編集後記(編集者が書くやつ)に、
「C翼のブームはものすごい。そして中身もものすごい。
小次郎や若島津(←うろ覚え)は怒ってます(泣いてます、だったかな)。
俺たちは変態じゃない」
というコメントが載ったのです。


当時は私はそっちにはハマってなくて、漫研の先輩が描いてるのを見て
「す、すげー…これって一体…」と思っていただけだったので、
同人界の反応はチェックしてませんでしたが(惜しかった)、
先輩がかなりのショックを受けていたのは覚えてます。
(でもずっと続けてた。健小次の、もろにやおいでした)

彼女もだいぶ昔のことなので記憶が曖昧な点もあるようですが、あったことは事実のようです。私もそんなような話を耳にしたことが、あるようなないような?いつ頃なのかは不明ですが、ジャンプを買っていなかった小学校高学年頃の私は直接その事件にふれてはいません。


ボーイズラブという言葉は比較的最近のもので、人によってその言葉の定義も異なるでしょうから、ここではあえて「やおい」と言います。(「ボーイズラブ」はオリジナル作品と二次創作両方、「それっぽい」ものを指すような気がしますが、「やおい」は私のイメージでは二次創作に限定されます)


友人が言うには「今ではこんなこと考えられないでしょう」
…確かにその通りです。キャプテン翼やおい同人、それをする腐女子たちは、編集部という公的な立場から、誌面でもって糾弾される立場だったのです。編集後記という、誰の目にもふれる場所で怒り(もしくは悲しみ?)を表明されるくらいです。
でも今、『テニスの王子様』で同じようなことがあり得るか?否です。絶対にあり得ない。


テニスの王子様』と『キャプテン翼』には
・ジャンプ連載の人気長期連載スポーツ漫画
・魅力的な男性キャラクターが多数登場する
などの共通点があります。

私は『テニスの王子様』原作を読んでおらず、知り合いにテニプリ同人もまったくいないので詳しいことは書けないのですが、そんな興味のない私にでも、テニプリの「どう考えたって腐女子向け、とまでは言わないまでも女性読者向けとしか思えない」商品展開(キャラ別CDなど)や、声優イベントやミュージカル…などについては耳に入ってきます。
声優イベントについてはあんまり良く知らないんですが何か頻繁にやっているようなイメージが。でも、小中高生男子のテニプリ好きでテニスをはじめたような男の子が、そういうものにあんまり来るとも思えないですよね?ミュージカルの客層もわかりませんが、やっぱり、うーん、一般男子は来ないよね?と思ってしまうのですがどうでしょう。知らずに書いているので失礼な描写があったら申し訳ありません。間違いや思い込みなどありましたらお詫びして訂正致します。


一応、いっときテニプリジャンルに足を突っ込んでいた友人にメールで尋ねてみたのですが
彼女も彼女の友人もアニメ方面に手を出していないらしく、あまりよくわからないとのこと。
「ジャンプ編集部がってよりもアニメやそれに付属する玩具やCDのほうが腐女子向けにえらいことになってるような気がする…」
と言われました。なるほど。CDはよく考えればそうですね、アニメの方から出ているんですもんね。
でもまあ、その内容が意に添わなければ原作者や編集部から待ったがかかるでしょうから、これはやっぱり「テニプリの萌えに関しては、編集部サイドが別に構わないと思っている」ことは間違いないと思います。

テニスの王子様』は同人的に非常に盛り上がっていて、テニプリを良く知らない私でさえ、「ウェブリングのサイト登録数がもの凄い数らしい(多すぎて全部回ることは不可能)」「オンリーは何度も入れ替えをしても参加者がはけないので、五時までイベントが続いた」なんていう噂を耳にしたことがあります。このジャンルからはじめて同人誌の世界に足を踏み入れたという方も、きっと多いのだと思います。
そんなテニプリ時代の腐女子と、翼時代の腐女子の違いを、ジャンプの状況から見て行きたいと思います。


キャプテン翼』の連載開始は1981年。当時のジャンプの人気作品には『Dr.スランプ』『キン肉マン』などがあります。『キャッツアイ』もこの年から始まりました。
『翼』は1983年にはアニメ化され、一気に人気を博します。(私もアニメの一回目をたまたま見たのが出会いでした…)
84年には『ドラゴンボール』が連載開始。こちらもすぐにアニメ化され、今さら説明するまでもない化け物的な人気作になっていきます。
当時ジャンプはノリに乗っていたでしょう。『Dr.スランプ』『キン肉マン』『キャプテン翼』『ドラゴンボール』いずれも、同人腐女子の力がなくても大ヒットしています。それだけの力量のある作品ばかりです。
なのに、『キャプテン翼』にいきなり、妙な女性ファンが付き始めます。(キャプ翼以前にもそういう人たちは少なからずいましたが、人数が増えて表に出て来たのがこの辺からなんでしょう)一般人から見たらまるで理解のできない、男同士の恋愛まがいのネタを漫画や小説にして、即売会で販売までしている。そりゃあ驚きますよね。私だって驚くと思う(笑)。というか、驚きましたよ。小学校高学年の、藤子不二雄が好きだった女子には衝撃でした。
前述の編集部からの「怒っています」発言は、これらのやおい同人が、ジャンプの人気作『キャプテン翼』のイメージダウンになると思っての発言でしょう。やおい同人は、原作にとって害あって益は無いと。この頃のジャンプサイドには、「腐女子をターゲットにする」なんて思考はまったくないのだと思われます。
作品のイメージダウンになるから「ポケモンのエロ同人誌を出した人物を逮捕」という事件は、まだ記憶に新しいです。(1999年)
関連:ポケモン同人誌事件 http://www.nitiyo.com/zine/poke/


で、テニプリのことを尋ねた友人からのメールには、こういう記述もあって

なんでも、ジャンプ氷河期(ドラゴンボールとスラダンの連載終了後)に
売り上げNO1の座をマガジンに抜かれたことがあって
かなり集英社側も必死だったみたいで…
腐女子でもなんでもいいから、とにかく購買層を増やせ!!
って時期があったみたいで…
だから、集英社は同人アンソロジーに寛容だって噂も聞いた…(これも噂)

アンソロの噂はともかく、売り上げが落ちたから…というのは聞き捨てなりません。調べてみました。


1995年、ジャンプは出版史上最高の653万部を記録していますが、そのわずか3年後にはマガジンに追い抜かれるという事態になっています。
抜かれたジャンプ側は、1994年に『幽遊白書』、1995年に『ドラゴンボール』、1996年に『スラムダンク』の連載が終了しています。


1996年のジャンプ連載陣、スラダンを除いたラインナップを見てみると…
えー
こここここ、こんなメンツで「週刊少年ジャンプ」はってたのか…と驚くような顔ぶれ。
(各作品をけなす意味では決してありません。看板漫画がないということで…)
実際見ていただくのが一番だと思いますので、こちらをご覧下さい
http://www.h6.dion.ne.jp/~rakuchan/j-data/action/action96.html
アニメ化したものもいくつかありますが、どれもほどほどヒット。とてもじゃありませんが、一般的にも大ヒットと言えるものはありません。
そりゃー部数も落ちますよ。(当時私は多分レベルEだけ立ち読みしてたなあ。ジョジョは単行本派だし)
さてマガジンの方はというと、『金田一少年の事件簿』(また復活するらしいですね)『GTO』などを擁して、97年には
24年間少年誌トップを維持してきたジャンプの発行部数を、初めて抜き去っています。いわゆる「ジャンプ神話の崩壊」という奴ですね。
現在では、両方とも300万部台でわずかにジャンプリード、といった感じ。


腐女子の間では有名な話で(噂なんだか公式発言なんだか良く知らないんですが)
「『スラムダンク』の井上雄彦と、『銀河英雄伝説』の田中芳樹やおい同人が嫌い」というのがあるんですが、私はスラダンは同人萌えしていなかったので、その話を聞いてもふーん、としか思えなかったのです。(自分も腐女子のくせに!)
でも、『銀英伝』は中学生の頃ハマってまして…たいしたことないんですけど、やはり腐女子妄想もしたりなんかしていましたので、公式であるにしろないにしろ、やはり作者自身にそう言われてしまうとかなり!かなり落ち込みますよ!わかってるんだけど…不快に思うの、当たり前なんだけど!ごめんなさい!でもやめられないよう!みたいな葛藤がね、ありましたね。なつかしいなあ。いや、思い出にしている場合ではないです。
田中芳樹さんは非常にファンサービスのいい方で、中学生で銀英伝と田中作品にハマり切っていた私は、バレンタイン、二人のキャラ宛(出版社が違うので別々に)にチョコレートを送ったことがあるのです。すっぱい思い出だよもう。
うちは貧乏でしたし、おこづかいもたかが知れてますから、板チョコに気ィ持ったようなものを送っただけなんですよ。ほんと安いやつ。
なのにホワイトデー。豪華なチョコクッキーセット(PS2くらいの大きさの箱)が二箱!別々に!お返しに送られてきて、もの凄くびっくりした覚えがあります。創竜伝だったかな?のサイン入り(印刷)ポストカードがついてた記憶が。おいしかったよ…
田中さんは、チョコ送ってきた人全員にそうやってお返ししているのだと後になってから知りました。
だからこそ、腐女子ノリというのが許せなかったのかもしれませんね…ちゃんと原作のファンな人にはたぶん、とてもサービスが良かったのではないかと。でも本の続きは出せよと(おっと)


で、『スラムダンク』の方はと言いますと、作者に嫌われているにも関わらず、腐女子人気もかなりのものを保ったまま、96年に連載を終了しています。
その井上さんが平成十二年に『バガボンド』で受賞した講談社漫画賞を、のちにスラダン同人出身(という言い方は語弊があると思いますが。なんて言えばいいのかな)の女性漫画家二人が、二年連続で受賞しています。(平成十四年度『西洋骨董洋菓子店よしながふみ/平成十五年度『ハチミツとクローバー羽海野チカ)各作品の素晴らしさからいって当然の受賞だとは思うのですが、報を耳にした時はなんだか不思議に誇らしいような、そう言ってしまっていいのか、奇妙な心持ちになったものです。
男性ファンや一般ファンが多い『ハチクロ』の読者は、「スラダン同人出身」とか言うと怒る人もいるらしい、と聞いたのですが、ああそうですかごめんなさい、と慌てて謝ったのちに、え、いまの謝るのか?謝るのってなにかどこか何かに失礼っていうか間違ってないか?と
いったいどこに向かって謝っていいのかわからなくなったりして。


話がだいぶそれました。
さて、そんな井上さんが週刊少年ジャンプ戦線を離脱したのち、
97年に『ワンピース』98年には『H×H』『ヒカルの碁』99年には『NARUTO』『テニスの王子様』が始まっています。
どれも腐女子をキリキリ舞いさせている作品ですが、やはりどう想像しても編集部から「怒ってます!」なんて言われることは、あり得ないですよね。
実際に原作者が同人腐女子に対してどう思っていようと、それを表沙汰にするのは得策ではない、むしろ積極的に女性ファンを取り込んでいった方がいい、という方針は、昔はともかく現在の編集部側、作者側ではかなり確立しているのではないかと思います。あくまで私の想像に過ぎませんが。
今ひとつ人気の出ない新連載作品に、かわいい女の子キャラを出したりエロを投入することを「テコ入れ」と言ったりしますが、もしかしたら、女性読者向けの「テコ入れ」なんていうのも普通にされているのかも、とも思えてしまいます。
そういう空気を読者が察知しているからこそ、作品に美形キャラが登場すれば「腐女子狙いだよ」と囁かれたりするのでしょう。否定したくても否定し切れない微妙な状況が、現在の腐女子と原作側の距離感なのではないでしょうか。


編集部から「キャラクターたちは怒ってます!」と糾弾された、かつての腐女子たち。そして、糾弾されても結局それをやめることが出来なかった腐女子たちは、当時たくさんいたのだと思います。原作を好きだからこそ、大きな罪悪感を感じたでしょう。自分のやっていることが、原作に対して決して良いことではないとはわかっているのです。
一転して現在、「萌えてください!」と言わんばかりにたくさんのいい男キャラたちを与えられ、優遇されている。ように一見、見えないこともない現在の腐女子たち。
そう扱われれば、それでいい。そう思ってしまうことを責めるのは少し酷なのではないかと思います。

腐女子を取り巻く状況の変化による、原作、作者、編集部などの公式サイドに対する認識の大きな違いが生まれるのは当然でしょう。
公式サイドからの、腐女子をターゲットのひとつとして据えたマーケティング。メディアミックス、商品展開。
同人誌と原作の境界線は、 そういうものに揺らがされてしまった部分もあるのではないでしょうか。


*ジャンプ連載作品に関しては、こちらを参考にさせていただきました
落石総研 http://www.pluto.dti.ne.jp/~rakuchan/index.html